害虫調査・虫害診断・不明昆虫の特定は、奥村防蟲科学までご相談ください

家屋害虫調査と虫害診断を行い、不明昆虫を特定したマンションの事例

 

家屋害虫調査と虫害診断を行い、不明昆虫を特定したマンションの事例をご紹介しています。

 

原因不明の虫さされや謎の虫の大量発生で苦悩された独り暮らしのお客様との貴重な体験談です。

 

 害虫調査のきっかけ

 

2012年12月、私はとある害虫防除施工店からの紹介で、独り暮らしのお年寄り宅を訪問しました。わずか数時間の出会いでしたが、そこで私はとても大切な事に改めて気付かされました。

 

誰もが既にご経験のある事かもしれませんが、きっとどこかでお役に立つのでは? と思いましたのでここにご紹介いたします。

 

 お客様情報

害虫調査に先立ち、事前に入手したお客様の情報

① お年寄りの女性で、高級マンション最上階で独り暮らし。

② 夏から虫に襲われている。

③ 虫に襲われるのが嫌で、数日前からホテル暮らし。

④ マンションを売却するため全室の害虫調査を希望。

⑤ 「身体から虫が出てくる」 何とかしてほしい。

 

先に対応した施工店曰く、以前に害虫防除したが特に何も居なかったとのこと。

・・・読者の皆様はどのような第一印象をお持ちになられましたか?

 

 にわかカウンセラー

聞くところによれば、言動が支離滅裂で相当精神的に病んでいるように見えると…。一抹の不安を感じながらも、まずは調査に要する諸費用を提示しました。

 

決して安くは無い調査を実施するか否か、改めて打診したところ、ご本人の強い希望で実施することが決定しました。しかしながら事前に得ていた情報から、私は「きっとノイローゼに違いない。おそらく虫は見つからないだろう」などと身勝手に想像していました。

 

このような場合どうすればその現状を認めて納得して頂けるのだろうかと悩み、訪問当日まで数日と迫るなか、カウンセリングやセラピー等に関する書籍を読み漁りました。そして、にわか仕込みのカウンセラーとして訪問に備えたのでした。

 

 衝撃の出会い

大阪から移動すること3時間、マンションに到着し、エントランスを通過してエレベーターへ。インターフォンの声は明瞭で、品のある奥様といった感じ。マンションも築年数は8年程度と比較的新しく、清潔感もあり、植栽などにも管理が行き届いているようでした。

 

最上階の玄関に到着し、ドアが開いてすぐ思いもよらぬ事態に遭遇しました。お婆さんが段ボール箱からおもむろに何やら取り出しています。なんと、使い捨ての雨合羽にスリッパとビニル手袋を渡されたのです。

 

お婆さんはダウンジャケットにニット帽とマスクで身を包み、つまりは私服のまま。しかし、先に入室されていた「保護者?」と思わしき方はなぜか完全防備という出で立ちで、いきなり面を食らいました。

 

お婆さん曰く、「虫に感染するといけないから…後で大変な事になると困るから…」と一言。言われるがまま玄関先の通路で雨合羽にスリッパとビニル手袋、そして自前のマスクを装着してようやく入室許可を頂きました…。

 

pagetop

 

 モノがない部屋

室内は3LDKの85~90㎡の南東角部屋でとても広く、大変綺麗なものでした。が、それもそのはず、害虫調査に合わせたのか事前に家具や小物、寝具までも既に処分されていたのです。

 

お婆さんは来春、介護付き特別養護老人ホームに入居することが決まっているそうで「遅かれ早かれ処分することになるから…」とのことでした。本当に何も無い部屋でしたので、ホテル暮らしをされている理由が納得できました…。この有り様では日常生活もままならないのは当然です。

 

お婆さんの奇怪な行動と現況に圧倒されつつ、予習してきたカウンセリングを開始しました。とにかく私からは一切質問せず、まずはお話を聴くことに徹しました。

 

 不可解な言動

 

 お婆さんから直接聞き取りした結果

① 夏ごろから毎日身体を刺されてチクチク痛い。

② 寝室でもリビングでも、家中のどこに居ても虫に刺される。

③ 何度もバルサンで全室処理したけど症状が治まらない。

④ 身体から白い虫がたくさん出てくる。

⑤ 靴下の中やセーターの中も白い虫がたくさん付いている。

⑥ 丁寧に掃除しても身体が痒くなる。

⑦ 浴室の天井に白い卵があって虫が出てくる。

⑧ リビングの照明を見ると虫がうごめいているように見える。

⑨ 床にも虫が食べたような跡がある。

⑩ 私は口呼吸だから虫が身体に入って、それが血液に入って死んじゃうかも‥など

 

・・・読者の皆様はどのような印象をお持ちになられましたか?

 

家財道具の完全処分と入室者への完全防備の強要、そして、上記の言動とおそらく誰もが「やはり病んでいる」としか判断されないのではないでしょうか? でも、そんなことはなかったのです。お婆さんは至って健全だったのです。その理由は後述します。

 

これら不可解な自己申告に対する回答に言葉を選びながら、何度も予習したカウンセリングは全く歯が立たず、とにかく本題の害虫棲息調査を実施してみましょうと相成りました…。

 

 謎の液体

床面は一見すると綺麗に見えるもののよく目を凝らしてみると何か液体をこぼした様な染みが至る所にありました。何をしたのか尋ねてみると、寝室のクローゼットにその正体が隠されていました。

 

クローゼットの扉は隙間をガムテープで封印されており容易には開けられない状態になっていました。ものものしい雰囲気の中でテープを撤去して覗いてみると「ダニアースレッド ノンスモーク霧タイプ(マンション・アパート用)」 ならびに「ダニアースレッド 水タイプ」の使用済み容器が大量に。いずれも通常6~8畳に1個の製品が各10個以上、計20個を超える残骸がビニル袋に詰められて保管されていたのです。

 

今日までに何回に分けて処理されたかは定かではありませんでしたが、尋常でない床面のベタつき具合から、規定量を大きく超えて使用されていたものと推察されました。

 

そのため、これら殺虫剤の誤った使用方法による健康被害を真っ先に疑いました。合成ピレスロイド系化合物に特徴的な眼粘膜や鼻、のどや皮膚に対する違和感や刺激、使用後の体調変化について尋ねてみました。結果は特に変化なし。何事も無く無事に過ごされていたのです。

 

お婆さんは大変な綺麗好きで几帳面らしく、日常的な掃除は徹底的に行っていたとのこと。前述の空間処理剤の使用後は、都度、清掃業者にハウスクリーニングを依頼し、清掃していたというのです。ただし、清掃業者からは毎回「お客様の清掃プランではこのベタつきは取れません」と通告されていたそうです…。理由はともあれ、これでベタつきの正体は判明しました。

 

pagetop

 

 刺す虫の謎

部屋を清潔に保っていても発生する害虫。それも刺す虫とはいったい何なのか? 様々な憶測が飛び交う中で候補に挙がったのがトコジラミ(ナンキンムシ)でした。日中は室内のごくわずかな隙間に潜んでおり、深夜になると活動する吸血性昆虫です。

 

この虫なら、家庭用殺虫剤の多くに採用されている合成ピレスロイド系化合物にも抵抗性が発達しており、日中であれば見つけられないことも充分に考えられます。

 

そこで、トコジラミの棲息の目安となる「血糞 (けっぷん)」を探してみることにしました。寝室の角やクローゼットのドア金具の隙間、サッシの周りやカーテンレール、幅木の隙間などトコジラミ特有の生態から考えられる虫の好みそうな場所をくまなく調査してみました。また、かろうじて残されていたベッドのフレームとマットレスについても隅々まで探してみました。

 

その結果、寝室だけでなくどの部屋にもトコジラミの棲息を感じさせる痕跡も虫も、何一つ見つからなかったのです。

 

家財道具等が撤去された今となっては以前の状態を知る由もありませんが、室内は風通しも良く、日当りも抜群で美しく、トコジラミだけでなくツメダニなども繁殖するような環境ではありませんでした。

 

 驚愕の事実

あまりに綺麗にされていた…というよりは、現状はすでに何も無いため調査は難航しました。お婆さんの言っていた、虫が発生した当時のままであれば何らかの糸口を見つけられたはずなのですが、何も無いとなるとそうはいきません。

 

ただ、幸いなことに床に見られた「虫が食べたような跡」については、お婆さんが床面のベタつきを自ら取り除こうとタワシでゴシゴシ擦ったことに起因する表面の剥離であることが判明しました。

 

また、「靴下やセーターの中の白い虫」についてもビニル袋に入った靴下を調べてみてそれが何か判りました。お婆さんはいわゆる潔癖症で、毎日身体をゴシゴシ洗っていたため皮膚が極度に乾燥し、「粉ふき肌」になっていたのでした。

 

つまり、靴下やセーターの中の白い虫とは、乾燥肌で粉ふきした皮膚の一部だったのです。同時に「身体から出てくる白い虫」についても、同一犯であると断定しました。

 

これらを踏まえ、改めて前述の聞き取りした結果を確認してみるとある興味深い事に気付きました。「お婆さんは小さなものが見えていない。」お年寄りで老眼なので当然のことかもしれませんが、この正常に見えていなかった事こそが様々な言動の発端だったのです。

 

お婆さんは眼鏡をかけるのが嫌いとのことで、常日頃から裸眼で過ごされていました。そのため、白い小さな皮膚片や床面の剥離跡に焦点が合わず、虫が居ると感じたのでした。

 

それを老眼鏡や虫眼鏡で再確認する間もなく、得体の知れない物体に恐怖し怯えていたのです。そして、その状況を他人に伝える際の表現が、それを聞いた誰もが異常と感じる言葉として発せられていたのでした。

 

 変化の無い空間

床面や手の届く範囲は異常なまでに清掃されていたため、手の届かない範囲に注目してみることにしました。ハウスクリーニングを依頼しているとはいえ天井付近の空間は手つかずのままだろうと思い、何か見つかるかもしれないと考えました。

 

そこで、浴室天井にあるという「卵」について調べてみることにしました。浴室内は天井も含め、全面をシャワーで洗い流したとのことで卵らしいものは何もありませんでした。照明カバーを取り外して中を見たところ、小さなクモがたくさん死んでいました( 写真1)。

 

これを踏まえ、「浴室天井の卵」というのは、クモの卵のうだったと断定しました。そして、クモが浴室で発生した理由については、外に干していた洗濯物を急な悪天候時に浴室に取り込んで部屋干しした際、洗濯物と共に持ち込まれたものと考えました。

 

同様にリビングについても照明カバーを取り外してみたところ、中からヒメカツオブシムシの幼虫と成虫が見つかりました( 写真2,3)。このことから、「リビングの照明にうごめく虫」とは、カバーの内側に入り込んで脱出できずに歩き回っていたこれらの虫だったのだろうと結論付けました。

 

ここまでの調査と診断結果についてはおおむねご理解頂き、ご安心いただけました。

 

Trachelas

 

(写真1 浴室照明器具内で発見されたクモ)

 

Attagenus_Larva

 

(写真2,3  リビング照明器具内で発見されたヒメカツオブシムシ幼虫と成虫)

 

Attagenus

 

 

pagetop

 

 意外な虫

残すは虫刺され症状のみです。これについてはなかなか答えが見つけられませんでした。当初、お婆さんの乾燥肌に起因する痒みや痛みではないかと思い、想定通りの回答が得られるよう誘導尋問してみたのですが、ことごとく否定されてしまいました。

 

お婆さん曰く、「確かに虫は居た」とのこと。しかしながら、家中のどこに居ても虫に刺されるというのは穏やかではありません。もしこれが本当ならば、諸々の症状を引き起こす虫がそれなりに多発生していなければ起こり得ないのです。

 

視点を変え、今度はヒゼンダニによる疥癬 (かいせん) 症を疑いました。高齢者施設や病院で時折問題になる皮膚疾患です。しかし、この点についても皮膚科医による診察結果が既にあり、ヒゼンダニの感染は無いとのことでした。

 

答えが導き出せないまま改めて手つかずの空間である天井を見渡していると、もう一つ、未調査の場所がありました。玄関です。

 

入室時の厳戒態勢ですっかり見過ごしてしまいましたが、玄関に一つだけガラスのカバーのついた照明があったのです。これを外して視てみるとお婆さんの言う通り、夏ごろから発生して毎日のように刺し、どの部屋にも容易に移動することができる刺咬性(しこうせい)昆虫が他の複数の虫とともに確認されたのです( 写真4)。

 

その刺咬性昆虫は寄生蜂の仲間「シバンムシアリガタバチ  Cephalonomia gallicolaAshmeadとキアシアリガタバチ  Laelius yamatonisTerayama」の2種( 写真5)。そして、ともに大量に見つかったのはシバンムシアリガタバチの宿主であるタバコシバンムシでした( 写真6)。

 

 

Insects_cause

 

(写真4 玄関照明のガラスカバー上で発見されたタバコシバンムシとアリガタバチ2種)

 

Laelius

 

(写真5 ヒメマルカツオブシムシの天敵 キアシアリガタバチ)

 

Lasioderma

 

(写真6 シバンムシアリガタバチの宿主 タバコシバンムシ)

 

 

pagetop

 

 発生源の追求

刺咬性昆虫の発見により、お婆さんが必死に話していた虫刺さされが真実であり、発言のすべてが事実に基づいていたことが明らかとなりました。お婆さんは決してノイローゼなどではなく、至って健全だったのです。

 

こうして何とかすべての問に回答することができたのですが、ここで新たな疑問が生じました。虫の発生原因です。アリガタバチ類は他の昆虫に寄生して繁殖する寄生蜂の仲間です。めったなことで多発生する虫ではありません。

 

ではなぜ、こんなにたくさんのアリガタバチやタバコシバンムシが発生したのか? ヒメマルカツオブシムシの天敵であるキアシアリガタバチも多数確認されたのはなぜか? これらについて何らかの共通の発生源があるのではないかと考え、改めてお婆さんから夏ごろの部屋の様子について伺いました。

 

お婆さんはお花が好きで、ガーデニングとドライフラワーを趣味とされていました。リビングのテーブル上や壁一面にドライフラワーを飾り、バルコニーでは鉢花を手摺が隠れるほど沢山飾っていたというのです。

 

この状況からアリガタバチ2種の発生源は、室内に飾られたドライフラワーに発生したタバコシバンムシとヒメマルカツオブシムシであると断定しました。乾燥植物質を好むタバコシバンムシとヒメマルカツオブシムシが多発生し、それら虫の臭いに誘引されて飛来したアリガタバチが寄生し繁殖したものと推察されました。

 

お婆さんは、まさか装飾のドライフラワーから虫が発生しているとは思いもしなかったそうで、掃除の際は埃を払う程度に留めていたとのこと。ドライフラワーは繊細で壊れやすいことから、ごく当たり前なのですが、これが虫の発見を遅らせ被害を助長してしまったようです。

 

なにはともあれ、これを以て今回の害虫調査を無事に終えることができました。

 

 独り暮らしの苦悩

調査を終え、お婆さんの話を聴いて一つ一つなぜそう感じたのか尋ねてみました。すると、前述の見えないものを老眼鏡で再確認しなかったことに想像すらし得ない深い理由があったのです。それは、「独り暮らし」の苦悩でした。

 

お婆さんは独りが故に、「虫に襲われて倒れたりでもしたら大変」「この虫が他人様に感染したりしたら大変」「自分ではどう対処したらよいか分からない」「万一、これが原因で死んだら残された犬や家の後始末が大変」「自分の不注意で多くの方々に迷惑が掛かる」などと人一倍周りに気を使われていたのです。

 

その結果、万が一の場合を考えてとった行動が、「殺虫剤の自己処理」「人と会わない」「専門業者への依頼」「家やホテルから極力出ない」「物を捨てる」だったのです。身寄りが無いそうで、周りに相談できる親族や友人も無く、独りで迫りくる「死」の恐怖に孤独な戦いを強いられていたのでした。

 

自分でできる限りのことを施し、それでも不安を取り除くことができず、たどり着いたのが「マンションの売却」と「介護付き特別養護老人ホームへの入居」そして、「NPO生前契約等決定機構との契約」でした。

 

お婆さんのとった一連の奇怪な行動には、その根源に「他人様に迷惑を掛けず人生の幕を下ろす」という強い想いがあったのでした。真実を知り、ろくに確認もせずノイローゼのお客様でカウンセリングが必要…などと軽率に思っていた自分が情けなく、お客様に接する姿勢の未熟さを思い知らされました。

 

 大切な学び

今回の害虫調査を通じてお年寄りとの接し方について学ばせて頂きました。

 

大切なことは「一言一句を聞き漏らさないよう、聴くこと」。ただ聞いているだけではなく、聴いて、その発言の理由を尋ねてみることが先入観の誤解を解き、世代間の認識の差を埋め、真の問題解決に繋がるきっかけになるのだと感じました。

 

 

私の経験が読者の方にほんの少しでもお役に立てば幸いです。

 

得体の知れない虫害でお悩みの際は、奥村防蟲科学までお気軽にご相談ください。

 

 

 

 

 

pagetop