珍種の害虫調査事例|屋内で発生した虫の稀なケースをご紹介します。

害虫調査と虫害診断で見つかった屋内で発生した変な虫について

 

今日までに一般のお客様よりご相談頂きました案件の中から特に稀な害虫調査事例についてご紹介させて頂きます。とっておきの超-マニアックな蟲の世界をご覧ください。

 

 調査事例 ① カシノナガキクイムシの大量発生

 あるお客様から別荘の大黒柱からキクイムシらしき虫が大量発生したとのことでご相談を承りました。お客様曰く、虫孔の数は557個にも上り、いても立ってもいられず市販のスプレー剤を虫孔一つ一つに5時間もかけて注入したとのこと。被害が大黒柱ゆえ住宅が倒壊するのでは!?と日を追うごとに募る不安に、押し潰されそうになりながら過ごされていました。藁にもすがる想いでネット検索していたところ、私どもの虫孔診断HPに辿り着いたそうです。

 

 早速、お客様より被害箇所の写真をメールに添付して送ってもらうと、複数の虫孔の中にところどころ水平に伸びる独特な食害痕が見受けられました(写真1)。そこで、お客様に大黒柱の樹種と虫孔の直径について尋ねたところ、岩手県久慈市産のクリの大木で虫孔の直径は1.5mm程度とのこと。この情報を元にクリを食害する昆虫について調べてみると、カミキリムシやコウモリガ、オオゾウムシや大型のキクイムシばかり…結果はどれも該当しませんでした。「一般的な昆虫ではない…。」だとすると外来種もしくは新たに問題を引き起こしている新興害虫か…。

 

そこで、一つの可能性を求めて近ごろ問題となっている新興害虫について調べてみることにしました。すると、もともと南九州などに局所分布していて過去20年ほどで本州全域まで分布域を広げた、“ナラ枯れ”を引き起こす小さな森林害虫の姿が浮かび上がったのです。それはカシノナガキクイムシ(Platypus quercivorus Murayama, 1925)でした。この虫はクリやコナラなどブナ科の大木を選んでは集団で穿孔し、身体に付着させたナラ菌(Raffaelea quervivora)によって寄生した樹木を枯らしてしまうという恐ろしい虫だったのです(写真2,3)。これを踏まえ、改めて虫孔の開いている位置や範囲、孔の特徴についてお客様から詳しく聞き取りしたところ、本種の生態的特徴と一致しました。

 


Platypus-hole


mass_attack


attack_protecto

写真1
カシノナガキクイムシの虫孔

写真2
カシノナガキクイムシの侵入孔

写真3
カシノナガキクイムシの対策

 

 加害者を仮定したところで虫の発生に至る過程を推察してみました。おそらく、クリの大木が山里にそびえ立っていた頃にカシノナガキクイムシ(以下、カシナガ)の集中攻撃を受けて枯れ、伐採されたのち建材として流通したものが大黒柱として使用されたのでしょう。残念ながら室内に虫の死骸などは残されておらず推察の域を出ませんが、虫孔の主を本種と仮定した場合、一つ安心できることが判明しました。それは、本種の発生がおおむね3年から長くとも5年程度で自然に終息するということです

1)

 

本種のマスアタック(集中穿孔)を受けた被害樹には成虫が飛来しなくなるのです

2。当然のこと、産卵もしないのでその後の発生ありません。このとっておきの情報をすぐにお客様にお伝えしたところ、とても安心されていました。短いようで長い3~5年ですが一応の目途が立ったことで、虫孔被害を受け入れることができたそうです。

 

 その後、今後の対策についてお客様と協議しました。557個にも上る虫孔に再びスプレー剤を注入するのは大変なので、より簡便な方法を模索しました。とはいえ大黒柱は直径30cm以上もあり、虫の発生部位を予測するのは困難です。そこで、常温で有効成分が揮散する殺虫剤を大黒柱に張り付け、柱表面をラップフィルムで覆う方法を試してみることにしました。

 

このたび採用した殺虫剤の有効成分は「プロフルトリン」。人畜毒性が低く、甲虫類の駆除に効果的とされる新規の合成ピレスロイド系化合物です。最近はこれを採用した不快害虫用途の製品や衣類用防虫剤等が、家庭用殺虫剤メーカー各社から販売されています。2ヵ月を目途に殺虫剤を取り換えながら、新たな成虫の発生と産卵を予防することにしました。この殺虫剤に要す費用は5~10月の1シーズンで3千円以内です。

 

この対策の結果は、2年後の現在も再発生は無いとのことで、無事に終息しました。何はともあれ、虫を特定して一応の対策を講じたことでお客様に安心して頂けたのが一番でした。なお、カシナガについては“東北森林管理局 カシナガ”で検索すると、解りやすい解説と生態写真とともにその詳細を知ることができます。

 


参考文献

 

1) ナラ類生立木へのカシノナガキクイムシの穿入, 井上 牧雄,西垣眞太郎,西 信介, 森林応用研究9-1,2000
2) ナラ類集団枯損の発生経過とカシノナガキクイムシの捕獲, 小林 正秀,萩田 実, 森林応用研究9-1,2000

 

 

 調査事例 ② ムネアカホソツツシンクイの発生

 前出のお客様より、クリの大黒柱からカシナガとは異なる直径3mmほどの虫孔が開き、大きな虫が出てきたとのことで改めてご相談を承りました(写真4)。前回と同様に写真を送って頂いたものの判別困難だったため、採集した虫を潰れないように郵送して頂きました。厳重に梱包された小さなマッチ箱から出てきたのはムネアカホソツツシンクイ(Lymexylon ruficolle Kurosawa, 1949)のメスでした(写真5)。ブナ科の枯れ木を専門に食べる虫で、なかなか見ることのできない甲虫の一種です。

 

おそらく、クリの大木を伐採した後に自然乾燥させる過程で成虫が飛来し、産卵したのでしょう。幸い、本種はカシナガのように一度に大量発生する種ではないため、お客様にはその生態の違いについてお伝えしました。また、共通事項として「いずれも独特な容姿ですが毒などは無く、ヒトや動物に危害を加えることもありませんのでご安心ください」とお伝えしたところ、とても安心されました。このように得体の知れない虫について回答する際には、「キクイムシなのだから毒などあるはずがない」などと決めつけず、有害性の有無を明確にお伝えすることが大切です。

 


Lymexylo-hole


Lymexylo_ruficolle


Soclerus_pictus

写真4
ムネアカホソツツシンクイの虫孔

写真5
ムネアカホソツツシンクイ

写真6
ヨツモンチビカッコウムシ

 

 調査事例③ ヨツモンチビカッコウムシの発生

 とある工務店様から昆虫同定を承りました。新築した住宅から発生したらしく、お施主様がキクイムシだと言って補償を求めているとのこと…。早速、写真を送って頂き同定したところ「ヨツモンチビカッコウムシ」と判明しました(写真6)。キクイムシ類の天敵とされる虫の一種ですが、生態は謎に包まれています。肝心な建材の食害の主は、被害状況からケブトヒラタキクイムシかハンノキキクイムシと思われました。

 

 建材から発生する昆虫においては、これら天敵昆虫が木材中から脱出しても同様に虫孔が生じるため、補償は困難と思われます。生物被害に起因する裁判は根拠の立証において不確定要素が多過ぎるため明確な理由付けはほぼ不可能であり、そもそもすべきではありません。どうしても納得できない場合は、相手方の「過失責任」を請求権の時効を迎えるまでに追求して示談交渉するのが妥当でしょう。虫が発生してしまったとは言え、信じて建築をお任せした先に裁判で争うことは好ましい手段とは思えません。通常、建築主が故意に虫付き建材を採用することは無いのです。

 

 

 調査事例 ④ ハラジロカツオブシムシの発生

 

 ある工務店様より謎の虫が住宅壁材の杉板から大量発生したとのことでご相談を承りました。正体は、ハラジロカツオブシムシの幼虫でした(写真7)。この虫が住宅から発生する場合、床下や天井裏でイタチやネズミが死んでいることが多く、成長した幼虫はさなぎになる部屋を確保するため餌場から離れて断熱材や壁材のブラスターボードのほか、杉板、柱等に穿孔します(写真8,9)。板やボードに孔を開けたり虫が出てきたりするため、キクイムシと間違われますが木材は食べず、乾燥動物質をおもな餌としています。

 

これを踏まえ、お客様に虫の生態についてお伝えし周辺を調べて頂いたところ、案の定、天井裏からイタチのミイラ化した死骸が発見されました。通常、動物が死ぬと腐敗臭によりその存在に気付くのですが、死骸が腐敗する前にケブカクロバエなどのウジが大量発生して残骸がミイラ化することもあり、時としてこれらの虫が発生します。このたび発生したハラジロカツオブシムシは、ネズミに寄生しヒトにも伝染する寄生虫を媒介する中間宿主として知られており、深刻な衛生上の問題があることから、清掃と消毒を念入りにして頂きました。その後、杉板は木パテで補修したものの「気持ちが悪い」との理由から新しいものに張り替えることで一件落着しました。

 


Dermestes_maculatus


Dermestes_hole1


Dermestes_hole2

写真7
ハラジロカツオブシムシの幼虫

写真8
ハラジロカツオブシムシ幼虫の穿孔

写真9
ハラジロカツオブシムシ幼虫の穿孔痕

 

 

 百聞は一見に如かず

 

 このように住宅から発生する昆虫は多種多様であり、時には想像もつかない虫が発生します。
 お電話でご相談を頂くお客様は不安から生じる恐怖感でいっぱいのため、目の前に現れた虫を直視することができません。そのため、とても抽象的な表現で状況を説明されます。例えば「柱に白い粒々があるの」「木をかじった感じ」「曲がったスジがある」「黒いのが顔出した」‥など。一見すると推察不可能と思われますが、そんな一言にもヒントは隠されています。

 

例えば、柱の白い粒々は必ずしも虫とは限りません。マツやスギなど針葉樹は新築当初にヤニが滲み出てくることがあり、これが白く見えることがあります。また、カビの場合もあります。カビ類の菌糸が絡み合って白い粒状に見えるのです。このように白い粒々を虫に限定せず、あらゆる可能性を探ってみることが大切です。そこで可能性のあるものに対してはこちらからお客様にご質問します。「柱の樹種はお判りですか?」「築年数はどれくらいですか?」「湿気は多いですか?」「カビ臭くありませんか?」‥などわずかなヒントを頼りに該当する事象を探ります。

 

木をかじった感じなら、「かじられた場所はいくつありますか?」「長さは? 幅は? 深さは?」などと質問します。とにかくお客様の声を素直に、固定観念を除いて聴くことが大切です。お客様によっては極めて正確に虫の発生状況を描写して説明される方もいらっしゃいますが、このような方は非常に稀です。今、目の前に出没している得体の知れない虫を細部まで凝視して解説できる方などそうそういません。なぜなら、そんなに平気ならご自身で解決できますから…。

 

 最近はお客様が小さな虫でも接写できる高性能なデジカメやスマホなどをお持ちのため、これらで写真を撮って頂きメールで添付送信して頂くのが最も適確に回答できます。やはり、何よりも百聞は一見に如かずです。これに周辺知識が加わることで回答に説得力が増し、よりお客様に安心をお届けすることができます。出張調査はお客様が遠方の場合に交通費のご負担が大きくなるため、この遠隔診断は双方にとっても大変効率的で効果的です。シロアリ・害虫防除施工店様においては、このたびの記事を今後の害虫調査の参考に、また、新入社員研修等にご活用頂ければ幸いです。

 

 最後までご一読くださいまして、ありがとうございます。

 

 

 

 


 


pagetop