ヒラタキクイムシの虫害診断と駆除方法の検討、殺虫剤に頼らない駆除施工

ヒラタキクイムシ駆除の方法と対策について考察してみました。

 

Lyctus

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 はじめに

 

近年、増加傾向にあるヒラタキクイムシとアフリカヒラタキクイムシによる虫害について、再興した社会的な背景と防除対策について、過去に発表された学術論文を参考にまとめました。

また、防除対策については、殺虫剤を使用しない駆除の実例を挙げて、被害調査⇒防除方法の検討⇒スチームクリーナーによる防除と課題について詳細に記しました。

ヒラタキクイムシ類の虫害は、新築住宅の引渡し早々から発覚し、裁判沙汰となるケースが多々あります。

下記をご一読の上、関係者間で情報を共有し、解決策のご参考にして頂けましたら幸いです。

 

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 ヒラタキクイムシの再興

 

10年ほど前までは新築の住宅には特有の匂いがあり、木の香りとともに鼻を突くような刺激臭が漂っていました。この「新築」ならではの‘おめでたい匂い’を、子供ながらに羨ましく感じたものです。今思えば、これがホルムアルデヒド臭だったのでしょう。ゆえにヒラタキクイムシの発生はほとんど見なかったように思います。

 

 昭和40年以降、住宅建材にラワン合板が積極的に採用され、これに伴いヒラタキクイムシが猛威を振るいました 1)。その後、昭和60年頃より合板の製造工程にクロルピリフォスやフェニトロチオンなどの有機リン系殺虫剤を接着剤に混入する技術 1)が採り入れられたことでこの問題は収束へと向かいました。

 

 平成15年(2003年)7月1日に施行された「建築基準法におけるシックスハウス対策に係る法令」等により、内装仕上げに使用するホルムアルデヒドを発散する建材は、その発散レベルに応じて使用面積が制限されることになりました 2)。その発散レベルはJIS、JASまたは国土交通大臣認定により等級付けされており 2)、星の数で、F☆☆, F☆☆☆, F☆☆☆☆までの3段階に区分しています。中でもF☆☆☆☆(フォースター)は最も放散レベルの低いもので、建築基準法の面積制限を受けることなく使用が認められていることから、現在の戸建の注文住宅ではF☆☆☆☆以外はほとんど採用されていません。事実上、住宅建材から発がん性のあるホルムアルデヒドは撤廃となったのです。

ホルムアルデヒド(通称;ホルマリン)は、わずかに含有するだけでも昆虫の卵の孵化や幼虫の生育を阻害します。この極めて高い防虫性能により住宅建材は各種害虫から守られていたのです。

 

 このように安全性が厳格に規定された建材の普及により、ヒトだけでなく虫にも安全な環境が提供された結果、影を潜めていたヒラタキクイムシが再興しました。

 

 

 最近の報告では、森 (2008)によれば1999年から2005年においてヒラタキクイムシ類の被害を受けた木質材料の樹種を調べた結果、最も多かったのはナラ材であり、全体の約38%を占めていたそうです。 3)。次いでラワンが約17%となっており、被害材の用途についてはタンス,テーブル,椅子などの家具製品が過半数を占めていたとのこと 3)。また、フローリングを含めた内装材の被害は約35%を占めており、その材料形態は合板が38%,集成材が13%でした 3)。弊社の防除実績では、2018年以降、特にナラ無垢フローリング材からのヒラタキクイムシ類の発生が急増しています。

 

 ナラ材の被害は明治時代より頻発しており 1)、ラワン材もまた前述の通りです。これに法規制も加わるとこれらの樹種はそもそも内装材として利用すべきでないと言わざるを得ません…。

 

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 ヒラタキクイムシの調査

 

 私は以前、あるハウスメーカーの依頼を受けて、ヒラタキクイムシ類が発生した分譲ならびに賃貸マンションの各一室を調査する機会を得ました。いずれも壁と天井の取り合い部を「壁勝ち」で組まれた内装となっており、ヒラタキクイムシ類は両物件とも壁材と床材から発生していました。

 

 このうち分譲マンションの被害においては、7年前の新築当初から発生しており、継続して毎年発生を繰り返していました。また、この物件で発生した種は、近年、各地で発生し増加傾向にある外来種のアフリカヒラタキクイムシでした。

 

なお、本種の同定は「 家屋害虫事典」 4)に記載された[日本産全種の検索表]pp.248-249.をもとに同定し、ハウスメーカー側の同定検査結果とも一致しました。下記に本物件の状況について詳細を記します。

 

 

 床材はラワン合板の基材にナラ化粧単板を貼った複合フローリングで厚さ12mm。虫孔は4箇所のみで被害は築1年目以降は収まっていました。壁材はラワンベニヤで厚さ5.5mm。壁勝ちのため天井のプラスターボードを超えて10cmほど天井裏まで突き出ています。虫孔は50箇所以上に及び年々増えているとのことでした。

 

 これを踏まえ、アフリカヒラタキクイムシが継続的に繁殖できる環境について調査したところ、天井裏に突き出たラワンベニヤに複数の脱出孔とフラス(虫糞木粉混合物)が見られました(写真1)。これにより、天井裏ないし壁裏の露出したラワンベニヤの柾目,板目,木口面においてアフリカヒラタキクイムシが継代的に産卵を繰り返し、毎年被害が発生したものと推察されました。

 

 賃貸マンションの被害においては、やはり新築当初から発生しており2年目を迎えていました。室内の被害はおもに玄関周りに集中しており、居室ドア枠の端や台所の仕切り、洗濯機の仕切りなど複数箇所から虫孔と降り積もったフラスが確認されました(写真2)。なお、この物件で発生した種は在来種のヒラタキクイムシでした(写真3, 4)。

 

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写真1

天井裏に突き出た合板の虫害

写真2

巾木の上に降り積もったフラス

(虫糞木粉混合物)

写真3

クロスを貫通して脱出するヒラタキクイムシ

 

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写真4

ヒラタキクイムシ成虫

写真5

天井裏のヒラタキクイムシ

写真6

スチームクリーナー

 

 内装の仕様は分譲物件と同様でしたが壁下地材の裏側には充分すぎるほどの空隙があり、ラワンベニヤの裏側全面が露出していました。これはヒラタキクイムシの産卵場所が無数に存在することを示しています。

 

 ヒラタキクイムシの発生量は室内側で計50頭ほどでしたが、壁裏側ではごく一部だけでも、その3倍以上の死骸を確認しました。また、壁材の突出した部分から点検口の周辺,ダウンライトの取り付け孔の隙間など天井裏全面に虫が散在していました(写真5)。

 

 両物件とも天井裏ないし壁裏側において継代的に発生を繰り返していることが明らかとなりました。

 

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 ヒラタキクイムシ駆除方法の検討

 

 アフリカヒラタキクイムシとヒラタキクイムシ。この難防除害虫の発生によりハウスメーカーと施主との間でトラブルになっていました。

 すでに両物件とも数回にわたりスプレー殺虫剤を虫孔に注入したりパテで虫孔を塞いだりといった応急措置はされていましたが、分譲物件においては これまでに数回の壁材の貼り換えまで行っており、ハウスメーカー側の負担額は400万円以上に膨れ上がっていました。

 

 

 ヒラタキクイムシ類の駆除には細心の注意が必要であり、布村(1968)は次のように警告しています。

「一度この虫に侵されると一時期虫糞の発生が止み被害がストップしたようでも年々次々発生が繰返されます 5)。駆除したつもりでいて2~3年後に他の部屋, 玄関, 廊下, 階段等のフローリング材に被害が移動した例もあります 5)。シロアリなどに比べ移動距離,繁殖力は劣るが、一度発生したら完全に絶滅するまで充分注意しなければなりません 5)」と。

 

 ヒラタキクイムシは産卵管の幅より大きい導管(樹木の水分や養分を通す管の直径が0.18mm以上)を持った広葉樹 6)の柾目および板目面に現われた辺材の導管の中 1)および木口面導管 4)に、4~6mmの産卵管を挿入して1~4個の卵を産み付けます 1)。木口面の場合、導管の入口に最も近い卵でも、数mmは内部にあることになり、最も奥の卵は産卵数からみて10mm近く入口より入っているものと思われます 5)。このため薬剤処理を施す場合は、含浸された薬剤が充分な効力をもつためには、少なくとも辺材にはこの程度の長さだけ木口面より内部へ薬剤が浸透していなければなりません 5)。また、材の裂目にも産卵することが知られている 1)ことから、木口面のみの薬剤処理では不十分であり、導管が露出している面の全部ならびに塗装やクロスの剥離した部位や亀裂等の裂目にも処理しなければなりません。

 

 

 これらを踏まえ、ハウスメーカーと施主の同席のもと具体的な駆除方法について協議しました。

 お施主さまからは極力薬剤の使用を避けて欲しいとの強い要望があり、住宅メーカー側も同様の意見でした。貼り換えを繰り返していた分譲物件においては半ば諦めた様子で、とにかく安全性を優先して欲しいとのことでした。事実上、薬剤処理は採用できない状況でした。そこで、これに代わる手段として熱処理について検討しました。

 

 ヒラタキクイムシは熱に弱く 7)、駆除に熱処理が有効であるとされています。材の温度を殺滅可能な温度まで高めると、比較的短時間で材中の卵,幼虫,蛹を死滅さすことができます 7)。

 

 熱処理においては、乾熱と湿熱(蒸気)の2種の処理に区別されます 8)。乾熱においては、Altson (1922)により149F (65.5℃)が殺滅温度と決定されており、厚さ1インチ (2.55cm)の木材表面から加熱した場合、木材内部まで熱伝導するまでに2時間、それ以上の厚さに対しては1インチにつきなお1時間保たれなければならないとしています 8)。湿熱に関しては、Fisher (1928)が100%の湿度で130F (54.9℃)以上の温度が1時間半保持される時に殺滅的であるとしています 8)。ただし、材中の温度がその温度に達するまでに要する時間は材厚に関係するので、これに応じた適当な温度と時間を必要とします7)。

 

 

 この情報を基に、予備試験として厚みの異なる3枚のラワンベニヤを用意し、業務用スチームクリーナーの蒸気熱をベニヤ表面に直接当て、裏側の温度がAltsonの殺滅温度を超える70℃に達するまでの時間を計測してみました。スチームクリーナーはケルヒャージャパン(株)製を用いました(写真6)。本体のスチーム調整ダイヤルとミスト調整ダイヤルは水滴が噴出しない程度に、いずれも最少に設定して使用しました。また、蒸気噴出口は付属品のハンドブラシに布カバーを被せたものに加え、ケルヒャージャパン(株)に特注で試作頂いた専用ヘッドの2種類を用いました。その結果、厚さ5.5mmでは45秒以上、9.0mmでは1分半以上、12mmでは6分間以上を要しました(未発表)。 この結果を基に厚さ5.5mmの壁材は1分間、12mmの床材は虫孔の周辺のみを6分間として熱処理を実施することにしました。

 

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 ヒラタキクイムシの駆除施工

 

 ハウスメーカーの協力のもと、玄関ドア三方枠から壁クロス(PVA),幅木,床材等の内装材に対する影響を観察しながらの施工となりましたが、熱による建材への影響は特に見られませんでした(写真7)。ただし、床材については表面をクリア塗装されたワックスが熱により溶解し、白く変色したことから再塗装が必要となりました。ワックスの再塗装後は白色が残ることも無く正常に回復しました。熱処理の後、念のため虫孔の目立つ部位のみ木材害虫用発泡エアゾール剤を虫孔に注入し爪楊枝で密栓しました(写真8)。

 

 その後、しばらく経過を観察したところ、その後も建材への影響は見られませんでしたが、虫が再び発生しました。居室ドア枠と壁とのわずか15mmほどの隙間(写真9)と、天井と壁との取り合い部の角からでした。新たに虫孔が開き成虫が脱出したのです。

 

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写真7

スチームクリーナーによる熱処理

(試作品の専用ヘッドを装着)

写真8

発泡エアゾール剤を注入し、爪楊枝で密栓した虫孔

写真9

ドア枠と壁との隙間に開いた虫孔

 

 原因について検証したところ、スチームクリーナーの蒸気噴出口がドア枠に接触するために密着できず、熱を充分に加えられなかったものと推察されました。また、天井部との取り合い部においては、天井のプラスターボードへの加湿を避けるため、噴出口を数ミリ程度下げて処理したのが原因と考えられました。

 

 この様な隙間と角については、スチームクリーナーの付属品にある噴射ノズルを用いることで熱処理が可能でしたが、施工時は持ち合わせていませんでした。なお、面状に処理した部分からの再発生はその後も無く、一定の効果が得られました。

 

 熱処理を実施する上での注意点としては、被害が広範囲に及ぶ場合、一箇所当たりの熱処理に時間を要すことから、全部の処理は現実的に不可能とされる事態が想定されること。また、薬剤のような残効性は見込めないため、予防効果はないことです。熱処理は、安全に駆除できる手段であるため、殺虫剤処理などと組み合わせて採用することで、より安全かつ効率的に対策を講じられるものと考えます。

 

 ヒラタキクイムシ幼虫の材中における行動には注目すべき習性があり、幼虫が材表面近くに来て蛹室をつくり蛹化する 5)のです。この習性を利用することで、熱処理の成功率はより一層高められるはずです。

 

 在来種ヒラタキクイムシの場合、成虫は毎年4~8月にかけて材から脱出し、自然環境では5~6月が最も成虫の発生頻度が高いのですが、冬期暖房のある室内では幼虫の生育も早く、四国・九州など暖地では2~3月から出現し始めます。この時、幼虫の蛹化時期は無暖房環境下では4~5月であるのに対し、暖房環境下では1~2月となります。したがって、材中の幼虫が材表面へ移動するこの蛹化時期を狙って熱処理することで、より効果的に駆除できるものと思われます。

 

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 抜本的な対策

 在来種ヒラタキクイムシの場合、幼虫は澱粉質の含有量が3%以上 9)の広葉樹辺材で発育します。針葉樹材は広葉樹材に比べて栄養分(特に澱粉)が少ないこと、さらには針葉樹材に含まれる抽出成分が産卵および幼虫発育の阻害要因として働いている可能性があることが指摘されています 4)。このため針葉樹には産卵できず、被害を受けません。また、全面を塗装されている材にも産卵できません 9)。したがって、このような材を使用すれば、ヒラタキクイムシの被害は発生しません 9)。ただし、別種のケブトヒラタキクイムシおよびアメリカヒラタキクイムシは針葉樹も加害するため、過信は禁物です。また、針葉樹材は虫の発生は少なくとも、湿気による反りが広葉樹材に比べ大きいため、虫以外の問題を生じる恐れがあります。さらに針葉樹ならではのヤニ(樹脂)の漏出による汚損も懸念されます。複合フローリングやラワン合板から虫が発生したからと言って安易に針葉樹に貼り替えるのはいささか問題があります。虫害を機に広葉樹材から針葉樹材に貼り換えをご検討の際は、くれぐれも新たな問題にご注意ください。

 

 以上を踏まえヒラタキクイムシ類の防除に際しての注意点を認識した上で対策を講じて頂ければ、これまで以上の結果が得られるのではないかと期待します。

少しばかりでもお役に立てれば幸いです。

 

 

引用文献

 

1) 雨宮昭二, 野淵 輝, ラワン材の防虫(増補改訂), (財)林業科学技術振興所, pp18-81. pp85-92. 1986

2)  シックハウス対策の総合情報 Webより

3) 森 満範, 2008, ヒラタキクイムシ類による被害の実態, 北海道林産試験場報告

4) 岩田隆太郎, 家屋害虫事典, (株)井上書院, pp243-252. 1995

5) 布村昭夫, 1968, ヒラタキクイムシの生態と防除(1), 北海道林産試験場報告

6) 野淵 輝, 鈴木憲太郎, 乾材害虫と屋内で発見される昆虫,  (財)林業科学技術振興所, pp.43-48. 1993

7) 布村昭夫, 1968, ヒラタキクイムシの生態と防除(2), 北海道林産試験場報告

8) 小野正武, 1984, 小島俊文著 ナラヒラタキクイムシに関する知見論考(論文紹介), 家屋害虫 (19,20), pp.57-77.

9) 篠永 哲, 武藤敦彦, 住環境の害虫獣対策 第7節, (財)日本環境衛生センター, pp.148-149. 2001

 

参考文献

 

  岩田隆太郎, 家屋害虫事典, (株)井上書院, pp243-252. 1995

  岸野正典, 中野隆人, 2003, 中国産および日本産シナノキ材, 北海道林産試験場報告

  岩田隆太郎, 木材保存学入門(改定2版), (社)日本木材保存協会, pp.52-57. 2005

 

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